inner-castle’s blog

読書、キリスト教信仰など内面世界探検記

一途な人、ヤコブ

ユダヤ人の直接の先祖ヤコブの話が旧約聖書創世記に出てくる。彼が「長子の特権」である神の祝福を兄からだまし取った話とか、兄の怒りから逃亡中に見た「夢の梯子」とか、恋人ラケルを娶るために14年も彼女の父に仕えた事とか、その後の妻達の子供産み合戦…

ルーブル美術館展「愛を描く」

新美術館にルーブル美術館展「愛を描く」を見に行った。 中学生の頃、半裸で胸に手を当て、目を天に向け、陶酔する金髪の美女の絵を見た。題名は「悔悛するマグダラのマリア」であった。信仰に目覚め、霊的な感激に陶酔する姿を、なんでエロチックな美女とし…

竹枝郎と天狼君 〝さはん(人渣反派 自救系統)〟より

以前取り上げた墨香銅臭作「人渣反派 自救系統」(略称さはん)の感想続きである。 この作品の舞台は、仙人界を含む人界、人界に絶えず侵略してくる魔界の二つに分かれている。主人公「洛氷河」は、人間と魔物のハーフであり、彼に慕われる仙術師匠「沈 清秋…

讃美歌39番「日暮れて四方はくらく」

前回、日記よりブログの方が、日々の雑感を書き留めるには健康的だと書いた。だがそれ以降、腰痛に悩まされたり、歯の痛みで歯医者に通ったり、定期的な眼科と内科の通院があったりして、何か読んだり考えるより自分の身体のお世話に忙殺されてしまった。加…

ブログの効用

先日、ネット検索していたら、次のような人生相談を見つけた。 「73歳で亡くなった母親の遺品整理で日記を見つけ、悪いと思いつつ読んだら、寡婦となった70歳前後の母が「老いらくの恋」を体験し、『人生初めて身体が震える程の快感を味わった』などの赤裸々…

待望と希望

新聞に猫をキャラクターにした「銀河鉄道の夜」の漫画が連載されていて楽しみに見ている。先週は、タイタニック号沈没の犠牲者が乗り込んできた場面であった。家庭教師の青年が、預かった子供達を抱きしめて死ぬ覚悟をつけた時に歌声が聞こえてくる。「ああ…

小説「繁花」を読んで

「結婚狂詩曲」は、日中戦争の時代の中国の若者達を描いていた。だが、私が一番気になっていたのは、自分と同世代の中国人達のことである。この小説「繁花」の著者は1952年生まれ、共産党員だった父の失脚により不遇の時代を過ごし、文化大革命中の1969年に…

「結婚狂詩曲」(原題「囲城」)感想 おまけ

(3)ミス蘇(蘇文紈=スウ・ウエンワン) 小説読了後、直ちに感想文を書いてそれで終わらせるつもりだったが、登場人物の中で唯一人、彼女だけが心に残り思い返されたので追記を書くことにした。 主人公鴻漸の関係が破綻に終わったと知った時、彼女はたいし…

結婚狂詩曲(原題「囲城」)感想-2

(2)中国人女性の愛の表現 まだ結婚もしない娘時代に「紅楼夢」を読んでいて気になる事があった。女主人公の一人は、天上の住民であった主人公に水を注いで貰った天の草の精であり、主人公が罪を得て下界(人間界)に落とされる際に、一緒に下界に転生し、…

銭鐘書著 「結婚狂詩曲」(原題「囲城」)感想

「天官賜福」その他近頃中華BL小説を楽しんでいたので、参考までにと軽い気持ちで本書を入手した。非常に面白く夢中になったところで体調を崩し、視神経もやられて文庫本文字が読めなくなり、やむなく中断。やっと、8月に入って読み終わった。 感想は一言…

「天官賜福」感想、おまけ

邦訳「天官賜福」感想で、「三界の笑い者」主人公謝憐が目指す救済を、今後の展開のなかで読み取って行きたい、と書いた。実は、それは彼の愛読書「道徳経=老子」の思想だろうと密かに思っている。 老荘思想は、島国日本では考えられないほどシビアーな殺し…

ヨハネによる福音書を読了して

もう20年以上、家族で聖書を読み礼拝をする事を続けてきた。最初は毎週、説教担当の夫の体力が衰えてからは隔週行ってきた。夫が亡くなって一事中断したが娘と私二人だけで時に友人を交えつつ再開し、隔週で継続して今に至っている。子育て中の娘は無理なの…

「天官賜福」第一巻 感想-2

漫画やSFでよく「転生」物を見かける。私はクリスチャンの家庭に育ったせいか、生々流転を意味する輪廻や転生といったことは全く信じていないし、縁遠い観念である。だが日本や中国といったアジア文化圏では、死ぬと宇宙の元素のようなものに還元され、ま…

邦訳「天官賜福」第一巻 感想

やっと中国語BL小説「天官賜福」の日本語翻訳本第一巻が発売された。アニメで夢中になり、有志翻訳で続きを読み、有志翻訳されていない部分は原文を魔翻訳してまで読んでいるから、話の筋は大体分かっていても、じっくりと翻訳されている書籍文章を読んで…

服部真澄著「千年の眠りを覚ます『伊勢物語』」

一月ばかり前、思いがけず心筋症の発作で入院し、もしかしたら人生終わりかななど思ったことがあった。その際、思い出した事と言ったら些細な心残りばかりで自分でも苦笑してしまった。そして連想したのが、伊勢物語の呆れた「世心つける」老女の段である。…

墨香銅臭作「人渣反派 自救系統」

神は預言者に一つの幻を示して言われた「アモスよ、あなたは何を見るか」。アモスが「一かごの夏の果物」と答えると、神は「わが民イスラエルの終りがきた」と語られた。 これは、預言書中でも最も印象的な場面の一つであり、私は子供の頃から「瓜」や「西瓜…

蘇東坡の詩より、「当年の二老人、我が此の音を作るを喜びたまえり」

心筋症の退院直後、突然、左右の目の焦点が合わない急性内斜視になってしまった。スマホを見過ぎた若者がよくかかる症状だそうだが、スマホもPCもそれ程見続けたわけでもない私がそうなった原因がよく分からない。働いていた頃には、毎日六時間以上PCを…

九十九髪

まだまだ生きるつもりでいたら、6月1日に突然心筋症の発作を起こし入院した。幸い10日ほどの入院で退院できたが、もう若くはないことを痛感してしまった。 これで死ぬかと思った時、心残りだったのが、あの小説まで読み終えてないとか、あの着物しつけがかか…

放蕩息子の帰還

放蕩息子の譬は、聖書の中でも最もよく知られた話であろう。様々の絵画に描かれたているが、私が思い出すのはレンブラントの版画である。建物のドーム型入り口の前で、丸いユダヤ帽子をかぶった老人が、跪いている半裸の若者を抱きしめている情景が描かれて…

天官賜福、《あなたは無限の風景です》

以前、この作家の「魔道祖師」を3回に渉って取り上げてしまった。元はといえば、テレビで「天官賜福」というアニメをみてすっかりはまってしまい、原作小説を書いたこの作家が記憶に残っていたからである。「魔道祖師」もすごく面白かったが、最後の露骨なセ…

オンラインツアー

この度、はじめてオンラインツアーを体験させて貰った。90分間世界一周ということで、エルサレム、モロッコ、ロンドン、インド、シドニーを15分ずつ現地ガイドが紹介してくれた。一番期待していたエルサレムではカメラの接続が悪かったりしたが、ライブ中継…

「メメント・モーリー(汝、死を憶えよ)」、ポンペイ展を観て

高校時代の英語の先生が、当時まだ珍しかった欧州旅行に行かれた。授業中に、フランス・ドイツ・イタリアと巡られたお土産話をして下さった。パリやウィーンの事はいくらか報道や映画で知っていた。だから、特に印象的だったのがポンペイで体験された事であ…

映画「人生は小説よりも奇なり」(原題Love is Strange)

たまたま、題名に惹かれてレンタルしたDVDである。それは、熟年同性婚カップルの物語であった。 あらすじは以下の通り。「ニューヨーク、マンハッタン。39年間パートナーとして同居してきた画家のベンと音楽教師のジョージは、同性婚が法律上認められて晴れ…

映画「安魂」

岩波ホールが間もなく閉館になると聞き、若い頃から親しんだ映画館を最後にもう一度訪れてみた。中国と日本の合作の「安魂」がかかっており、息子を亡くした父親がそのショックをどのように乗り越えるかがテーマになっていた。 原作の小説と映画は、中身が大…

カラマーゾフの兄弟-4

何度かこの作品の感想を書きかけたのだが、今は少々後悔している。やはり私の好む小説ではない。しかし、話の本筋ではないアリョーシャと少年達の場面だけは心に残り忘れられない。特に、最後に死んでしまうイリョーシャという少年のことである。 彼の父スネ…

カラマーゾフの兄弟-3

長男ドミトリーは、この作品の中で一番わかりやすい人物である。彼は、父親の生への情熱を受け継いでいるが、金銭欲はそうではない。母親がそうであったように、自分の情熱のままに生きる独立不羈な性格である。母親の遺産を受け取るために帰郷したら、父親…

「カラマーゾフの兄弟」-2

この作品を今回に読み返して、以前は嫌悪しか感じなかったスメルジャコフに、はじめて同情した。彼は、白痴の乞食女が産み落とし、下男のグレゴリーに育てられた孤児である。おそらく彼の母親をはらませたであろうフュードル・カラマーゾフから、父称フュー…

「カラマーゾフの兄弟」

「大審問官」で有名なこの本は、誰でも若いときに一度は読むもののように考えられている。だが、私にとっては、自分の読書というより、子供の頃に父から読み聞かされた思い出が一番強烈である。30歳前後の青年であった父は、これを愛読していたのであろう。…

魔道祖師-3

前回ヒロイン籃湛を取り上げたので、主人公魏嬰についても書いてみたい。魏嬰一筋で分かりやすい籃湛と異なり、魏嬰はかなり複雑である。 日本で家族制度が廃止されてからかなり経ち、今の私達はほぼ個人の意識で生活している。だが、中国は氏族社会としての…

「魔道祖師」-2

前回、「魔道祖師」を取り上げたが、あらすじとヒロイン(男だが)籃湛が恋に陥る過程が面白かったと一言の感想でかたづけた。しかし、それをもう少し詳しく書いてみたくなった。小説の登場人物の心理を想像するのも、読書の楽しみではないだろうか。以下、…