inner-castle’s blog

読書、キリスト教信仰など内面世界探検記

バッハカンタータ大全集(アルノンクール・レオンハルト版)

 バッハカンタータ大全集というレコードを、職場近くの図書館で発見したのはもう40年以上昔になる。まだ子供が幼く保育園に預け、共稼ぎで奮闘していた頃だ。生活も苦しく、仕事と家事に追われ何の余裕もない時期であった。通勤の行き帰りに読む本を借りるため、よく図書館を利用した。たまたま、図書館には本だけでなくレコードも置いてあることに気がついた。そこにあったのが堂々たるケース入りで、ずらりと並んだったバッハカンタータ大全集だった。(当時は、まだCDはなかった)。
 私はクリスチャンホーム育ちだったから、教会音楽に縁がなかったわけではない。だが、賛美歌やオルガンの前奏曲メサイアのような曲しかなじみがなく、教会カンタータというものに触れたことがなかった。早速、借り出して、夢中になってしまった。アルノンクールとレオンハルトが交代で指揮したバッハカンタータ全曲演奏である。音楽が言葉(歌詞)を解釈し、膨らませ、相乗効果で、これほど人の心を動かすものかと驚いた。
 それ以来、楽しみにレコードを借りてはカセットテープに録音し、ウォークマンで聴くという時期が続いた。教会カンタータだけで200曲ある。自分で買うには高価過ぎるし、狭い自宅に大量のレコードを置く場所もない。実は、レコードをかける時間的余裕もなかったのだが、家族が寝静まるのを待ち、ヘッドホンで聴きながら録音する。それだけでも、今思えば大変だった。だが、若さである、やってのけたものだ。
 ことにテノールのエクウィルツの大ファンになり、来日したときには亡くなった夫と聴きに行ったことも懐かしい思い出である。
 そのバッハカンタータ大全集がCDになり、廉価で入手することができた。一年以上かけて一枚ずつ聴いた。歌詞の対訳や解説書は付属していないので、別に本を買って間に合わせた。当時とは心に残る曲がまた違う。年齢を重ね、自分の置かれた状況も変化したからだろう。

 大好きだったカール・リヒターもフッシャー・ディースカウも逝った。懐かしい歌手や演奏家が次々と世を去り、新しい演奏家達が活躍している。だが、私にとっては、かつて聴いた演奏が、当時の自分と結びついていつまでも心に甦る。音楽を記録する媒体も、レコードからCDへとめまぐるしく移り変わった。コロナ禍や自分の老いもあり、コンサートに足を運んだり、レコード屋(CD屋?)に足をぶことも少なくなった。だが、若い日によい音楽に巡り会ったことは何という幸いであろうか。
 第九交響曲の合唱ではないが、音楽にあって「人類はひとつになる」。引きこもりの生活の中でも、音楽に心慰められる体験ができて感謝である。