inner-castle’s blog

読書、キリスト教信仰など内面世界探検記

「魔道祖師」-2


 前回、「魔道祖師」を取り上げたが、あらすじとヒロイン(男だが)籃湛が恋に陥る過程が面白かったと一言の感想でかたづけた。しかし、それをもう少し詳しく書いてみたくなった。小説の登場人物の心理を想像するのも、読書の楽しみではないだろうか。以下、私の推測部分は「→」で表記する。
 籃湛(ラン・ジャン)は、籃家宗主の二人の息子のうち弟にあたる第二公子である。字は忘機(ワンジー)、含光君と号する。母親は彼が6歳の時に世を去り、父親の籃家宗主も世と交わりを絶ったので、兄弟は父親の弟である独身の叔父に厳しく育てられた。
 美男子を輩出することで有名な籃家の中でも、兄弟は百年に一度と言われる抜群の美貌と文武両道の天才の持ち主であった。兄籃渙は、跡取りとして社交や政治的能力を養成されたが、弟籃湛は一門の仙師の模範たるべく個人としての仙師の理想を叩き込まれた純粋培養少年である。寡黙・無表情で、たまに兄に話しかける以外、ほとんど人と接触したがらない。その為、兄は彼の気持ちを忖度することに長けてしまった。
 主人公魏嬰(ウェイ・イン)は、籃家座学で彼に出会う。まず、その際だった美貌に惹かれ、次にその実力にライバルを意識する。彼をからかい、いたずらを仕掛けて自分に注意を向けさせる事が彼の楽しみになる。
 魏嬰は、籃湛が読書中の本を春画にすりかえるいたずらをして籃湛を激怒させる事件があった。翌日、魏嬰と江澄は、籃湛が兄と連れだって外出しようとするところを見かける。領地内の水鬼事件に手を焼いた兄が、弟の手伝いを要請したのである。座学に飽きた江家の二人は、早速同行を求め、承諾される。同行を認めた理由を兄に尋ねた籃湛は「だって、お前が江家の一番弟子(魏嬰)に一緒に行って欲しいって顔してたじゃないか」と言われる。→籃湛が、魏嬰に惹かれている自分を意識した最初の瞬間である。
 水鬼退治で、魏嬰は籃湛を凌ぐ抜群の実力を見せた。だが、剣に乗って渦にまきこれれた人を救助しようとして、力不足で二人とも渦にのまれそうになる。籃湛は、同じく剣に乗って彼らを救助し、その怪力を見せつけた。だが、他人との身体接触を嫌って、手をつかまずに襟首をつかみ上げて救助する。→幼少期から、仲間の身体に触れ合って遊んだ経験がないから、身体的接触に過剰反応する。
 帰りの水路で、魏嬰はびわ売りの少女達と談笑し「ハンサムな兄さんに上げる!」とびわを一個せしめた。すると魏嬰は、隣で澄ましていた籃湛を指さし、「こいつも美形なら、もう一個頂戴!」とねだり、「あんたよりもっと美形よ!今度二人でびわを買いにきてね」の声と共に、籃湛の美貌を讃美するびわも投げ込んでもらった。籃湛は、こうした軽薄なやりとりを嫌い、別の船に逃げてしまう。→自分の心をかき乱すからかいも、こうした軽い動機からかと腹が立ったのである。
 ある晩、見回りにでた籃湛は、夜間外出禁止を破って塀を乗り越えて入ってくる魏嬰を見つけ、それを阻止しようとした。すると魏嬰は彼に飛びつき、がっちりと抱きついて一緒に塀の外に落下し、「お前も一緒に塀の外に出た以上、俺たちは共犯だ。だから、お互い、言いつけっこなしだぜ」といって、バレない算段をした。これが誤算であった。翌日、籃湛は事実を正直に申告し、無理強いされたにも拘わらず自分も魏嬰と一緒に戒尺で打たれる罰を受ける。その傷を癒やしに冷泉に浸りにいった魏嬰は、そこでまた籃湛に出会う。詫びて彼のストイックな公正さを褒めた。だが籃湛は、春画を見せられ、その上塀の上で抱きつかれて全身を接触し、今度はお互い裸で会って、性的羞恥を覚える。→異性を知らない彼は、魏嬰を性的に意識する。初恋の端緒である。
 春画事件を知った叔父は、籃湛に魏嬰との接触を禁じ、彼は授業に出なくなった。だが、魏嬰が仲間と狩りに出かけようとする声をきいて、籃湛が蔵書閣(図書室)の窓から視線を向けたのを魏嬰に気づかれてしまう。狩りの帰路、魏嬰はさっそく蔵書閣の窓から忍び込み、お土産と称して子ウサギを2羽、籃湛に押しつけた。断ると「要らないなら俺たちが食う」という。殺生を嫌った籃湛は、ペットを飼う羽目になる。→魏嬰が去った後も、ペットと触れ合う度に彼を思い出すようになる。
 座学終了後も、折に触れて互いに会う機会があった。魏嬰はその度に、自分の愛慕の情を見せつける。だが、籃湛はそれを無視する。→魏嬰は同性であり、自分の恋情を押し殺したいのである。
 だが、ある弓術競技大会で、魏嬰は、出場者の華麗なユニホームを着た籃湛の美に感動する。そして籃湛の抹額(鉢巻き)を引っ張って外してしまうという事故を起こしてしまった。籃家の抹額は自制を象徴しており、身を任せる伴侶以外の何者にも触れされてはならない大事なものであった。魏嬰は詫びたが、あまりのことに籃湛は競技を放棄、退場してしまう。→魏嬰との縁が、運命的なものであることを予感する。
 また、諸家若公子達が温氏に強いられてを妖獣の洞穴を探索させられる事件があった。その途上で、ある女仙師が「綿々」と呼ばれていることに気づいた魏嬰は、「遠道」と自称して彼女に近づき、香袋をねだる。「綿々と、遠道の人(近づきがたい人)を想う」という恋の詩で彼女をからかったのである。それは籃湛にこそ当てはまるのであり、彼は激しい嫉妬を感じる。
 その後、二人は屠戮玄武の洞穴に閉じ込められ、救助を待つ状態に陥る。妖獣は退治したが、魏嬰は高熱を出してしまう。魏嬰から歌を所望された籃湛は、密かに自作した彼への愛の旋律を歌う。(例えば「G線上のアリア」のような旋律であろうか。琴を弾じて天下を治めた舜の故事にならい、籃家の仙術は音律を操るものであった)。後にこの曲が、籃湛に魏嬰復活を気づかせる。
 籃湛の想いは募るばかりであった。温家討伐の後の巻き狩り大会で、籃湛は、目を蔽って(目隠してて)一人昼寝する魏嬰を見かける。彼は、魏嬰に襲いかかり強引にキスを奪ってしまう。魏嬰は抵抗しようとしたが、相手が震えていることに気づき、内気な少女と勘違いして受け入れてしまう。二人とも初めてのキス体験であった。逃げ去った籃湛は深く後悔する。→魏嬰が真剣に自分を愛することに自信がない以上、相手の真実の愛を確信できるまで、決して性的交渉を求めないと決意する。
 その後籃湛は、魏嬰の順調の日には魔道を諫め、破滅と絶望の日には彼の命を助けた。そして、彼の行為が正邪いずれであっても、伴侶として魏嬰に連帯し真実を尽くすと一門の者達に告白する。彼が制裁を受けている間に、魏嬰は悲惨な死を遂げた。だが、籃湛は彼が現世に復帰することを待ち続け、再会の後も、彼が真実の愛で自分を愛するまで性的交渉を求めようとしない。
 聖書は情欲を罪としている。だが、性的衝動そのものではなく、相手を尊重し、自分の真実を尽くそうとしないことが罪なのではないだろうか。たとえ、同性に対する性的愛であっても、相手に真実を尽くすのであれば、許されるように思えた。
 これが、大変にエロいこの小説を読んだ感想である。