inner-castle’s blog

読書、キリスト教信仰など内面世界探検記

「天官賜福」第一巻 感想-2

 漫画やSFでよく「転生」物を見かける。私はクリスチャンの家庭に育ったせいか、生々流転を意味する輪廻や転生といったことは全く信じていないし、縁遠い観念である。だが日本や中国といったアジア文化圏では、死ぬと宇宙の元素のようなものに還元され、また別の何かとして生まれてくるという漠然とした観念が普及している。だから、前世とか「幾世(何度も生まれ変わって積み上げた因果の)の福縁or悪縁」とか言われても、もう慣れてしまって、なんとなく受け入れ理解している。
 だが、神仙も死ぬ。そして、死んだ人の霊魂である「鬼」や「怨霊」も「死ぬ」のである。「鬼」の場合の死は、言わば宇宙の元素に還って消滅する事であり、神仙の死は人間の死と全く同じである。つまり神仙は、人間が超能力をもち特別長命になっただけという感じである。
 神仙達が居住する天界は、人間界の上空に「天空の城ラピュタ」よろしく浮かんでいるが、人間界と鬼界は同一平面上に入り混じっている。だから妖怪や怪物も、人間界に出没し、また神仙達の活躍する舞台も主に人間界である。
 結局、現実の人間世界に神仙や鬼といったファンタジーを組み込んだのがこの小説の世界といえる。たかが娯楽作品だから深く考える必要はないが、この辺の理解がないと半月国遺跡での事件は何だか分からない。死んだ者がまた死ぬって何なの?と思うだけである。
 古代の外国侵略とは、モーセに率いられたイスラエルがエリコを攻め落としたように、先住民を皆殺しにして、その国に土着することである。オアシス都市国家であった半月国は、そのように永安国(中国)に滅ぼされた。
 永安国人と半月国人の混血である半月国師が内部から城門を開き、後に小裴将軍となる裴宿が率いる永安国軍を半月城内に導き入れた。それを目撃した半月国将軍「刻磨」は彼女を信頼していただけに激怒し、戦いが終わる前に彼女(半月国師)を縛り首にして罪人坑の上に吊した。
 その後、将軍刻磨はじめとする半月国兵士達も、国を裏切った半月国師も双方が鬼(亡霊)となり、国師は兵士を罪人坑に封じ込め、兵士は国師を罪人坑の上で縛り首にする、を繰り返して来た。怨霊(鬼)を鎮めるには、殲滅する(殺す)ほか、生きた人間を供物とするやり方もある。刻磨は、通りがかりの隊商を捉えては罪人坑に封じられた亡霊兵士達の供物(生け贄)としてきた。こんな状態が、永年続いてきたのである。だが天界も、これを足がかりにし神仙となった小裴将軍とその後ろ盾をはばかり、表沙汰にしようとしないできたのである。
 この事態を終結させたのは、鬼王花城であった。彼が罪人坑に飛び込み、兵士亡霊を一瞬に皆殺しにして宇宙の元素に還したのである。
 後に罪を認めた小裴将軍が言う「(世の中のトラブルは)話し合いでは解決できない。戦うしかないんだ」。鬼王花城は後半「戦うしかない」に同意する。だが、謝憐が同意したのは前半「話し合いでは解決できない=理屈では結論が出ない」だけである。では、彼の望むあるいは考える解決はどんな方向にあるのだろう。今後の展開の中でそれが展開されるのだろうか、その辺を読み取ってみるつもりである。