inner-castle’s blog

読書、キリスト教信仰など内面世界探検記

「パイドン」読中感③-霊魂不滅の証明-1

三、霊魂不滅の証明
(1)生成の循環的構造による証明-生から死へ、死から生へ
 S(ソクラテス)は、肉体が死滅しても魂は雲散霧消しないという証明が必要というケベスの反論に応え、まず古くから言われている輪廻説(死んで魂はあの世にいき、再びこの世に転生する)が真実だとすれば、あの世(ハデス)に死者の魂が存在するということではないか、と言う。しかし輪廻説が不確かというなら、生成するすべてのものについて考察してみよう。なにか反対のものがある限りのもの(例えば美が醜に反対であり、正が不正に反対であるような)において、一方は反対物である他方からしか生じえないことは必然であるかどうか考察しよう。なにかが大きくなるには、必ずその前はより小さくあらねばならない。→「そうです」。S:では同様に、「小」となるには「大」から、「強」は「弱」から、「正」は「不正」から生成される。→「そうです」、S:それでは、すべてのものは、反対のものがその反対のものから生成されると言う事について納得したわけだ.→「確かに」。… 
 このようにSは、すべて対となる反対物相互間に増大と減少とか、結合と分離とかいう逆方向の生成が存在し、それら逆方向の生成が相互に働く事により、それら対になった反対物は相互から生成され、互いに他方へ生成する、と言う事をケベスに同意させる。そして、ついに生者から死者が生成され、死者から生者が生成される(生まれる)ことを、理論上納得させる。従って魂は(魂だけの状態で)ハデスに存在することになる。
 更に、生から死だけを認め、死から生への生まれ変わりを否定したら、万物は消滅してしまうのだから、①生き返りも、②生者は死者から生まれることも、③死者の魂が存在することも、本当にあることなのだ、とSは結論する。これはむしろ信仰告白であろう。
 ※以上の議論は、質量不変の法則を前提としているようで納得できない。「無から有を生じさせる」創造信仰なしでは、いわゆる「六道輪廻」状態である。ソクラテスとしては輪廻を脱して「解脱」状態ともいうべき「神々と共に住む生」を願っているだろうから、その場合、魂だけの状態で「生き返り」はない事になってしまう。「生き返り」も、キリスト者の信じる「復活」とは違い「転生」と言うべきものであり、輪廻というべきものである。従って、単に魂だけの状態で存在しうるという、理屈上の説明にしか過ぎない。これでは、愛する師を見送る弟子達を慰め力づけることにはならない。
 キリスト信仰においては、身体無しの魂だけの状態での存在ではなく、キリストが復活されと同じ「霊の身体」をもった存在(人間)への復活を希望し、信じる
 ただし、唯物的であった若い頃は、「魂だけの状態で存在しうる」ことさえ確信が持てない時期があった。だから、その点だけでも若いケベスらを説得しようとするSの気持ちは理解できる。

(2)想起説による証明。イデアの認識は想起である。故に、人は誕生以前にイデアを見ていたのでなければならない
 ケベスは、学習は想起であるという理論が真実であれば、生以前に「魂は(魂だけの状態で)存在」していたことになるから、この点からも魂が不死であることに同意できる、とした。しかしシミアスは、想起説をもう一度説明して欲しいと願った。
 そこでSは、恋人の持ち物(竪琴とか上衣とか)を見て、恋人を想起するのは、恋人を知っているからであるように、事物や人を見て「美しい」と思い、行いなどをみて「善い」と思うのは、「美」そのものや「善」そのものを、既に知っており、それに関連するか似ているかして、「美」そのものや「善」そのものを想起するからである。従って「美しい」とか「善い」とか判断する以上、生まれる以前に(魂だけの状態で)真実在である「美」や「善」そのものである真実在(イデア)を知っていたことになる。だから、真実在(イデア)が存在することと、(魂だけの状態で)魂の存在することは、同じ必然性もとにある、と説明する。シミアスは全く納得し、両者が同じ必然性のもとにあることは明白に思われると言い、「なぜなら、そのようなもの(真・善・美などのイデアが最高度の意味で存在する、という以上に私にとって明白なことはないのだから」少なくとも自分にとっては充分証明されたとする。
(3)さらに強力な証明へのケベスの要求
 ではケベスも納得したかね、と聞かれて、ケベスは「魂が、生以前に存在したことは納得するが、それは半分にしか過ぎない。死後にも存在し続けるという証明も必要である」という。それは既に(輪廻循環説などで)証明されたといっても、死んで魂が肉体を離れた瞬間、なにか大風に吹き散らされるように魂が元気を失い消滅しないか心配なのだという。死をお化けのように恐れる子供が自分の中に潜んでいるから、この子供を安心させて下さい、あなた以上に安心させる「おまじない」を唱えてくれる人はいないから、と懇願した。
 Sは「では、そうした『おまじない』に優れた人を探すためにお金も苦労も惜しんではならない。また、君たち自身も一緒になって探求し合わねばならない。なぜなら君たち以上に有能な人は、探し出すに容易ではないだろうから」と、弟子達を励ました。
 ※ケベスはいつも凡人を代弁してくれる。過去からではなく、死後における喜ばしい生存を確信し、希望できなければ、死に立ち向かう事はできない。