inner-castle’s blog

読書、キリスト教信仰など内面世界探検記

Bee作「バッドエンド・タイムリープ!」

 web小説である。今月に入り、イエスの復活からキリスト信仰がどう展開していったか、おさらいのつもりで始めた勉強が難しく、自分の限界を感じてしまった。気分転換に、PCで無料で覗ける小説サイトで読んだ。
 「悪役令嬢もの」という分野があり、PCゲームで主人公を妨害し話を面白くする役目を果たす悪役が、当然の帰結として死刑などの末路をとげる。途端に、その悪役令嬢がゲーム開始前か最悪の結果に陥る以前の時間にタイムリープし、自分のバッドエンドを避けるために奮闘するというパターンがある。タイムリープするのは、バッドエンドを遂げる本人だからこそ、それを回避するのに必死になり、読者も夢中になるというものである。ところが、これはタイムリープするのがバッドエンドする本人でも、ゲームプレーヤーでもなく、全くの第三者である。本人のバッドエンドを知った第三者が、そこまでの記憶を残したままタイムリープし、そのこと自体によってバッドエンドする本人に関わっていく。何も知らない本人のバッドエンドが回避できなければ、タイムリープが繰り返されるという不思議な出来事の話である。
 母子家庭に育った少年「木嶋」が、母の再婚を機に独立して一人暮らしの高校生活を始めた。ある程度は仕送りに頼っても、アルバイトで自活したいと思っている。男の子は母親の再婚に抵抗するのが普通であるのに、年齢の割にはしっかりした考え方である。3月のある朝、教室に入ると、窓際の席に花が飾られているのに気がつく。その席は、欠席がちでクラスから浮いていた男子同級生のものであった。クラスの女子達が、「あの人、自殺したんだって。高いところから落ちて顔なんかグチャグチャだったそうだよ」と噂している。「へぇ~、不良ぽかったけど、顔は綺麗だったからちょっと興味あったのに、修学旅行も参加しなかったね」「そう、韓流ドラマの俳優みたいだった」など、クラスメートが悲惨な死に方をしたというのに、顔の善し悪しを噂するだけで何も感じないとは、と不快に思って一瞬目を瞑った。次の瞬間、終業のベルが鳴り、教師が「今日はここまで」といって出て行った。クラスの皆も机を片づけて教室が騒然とし始める。たった今、朝の教室に入ったばかりだのに、タイムリープしてしまったのである。季節も変わっており、肌寒い筈が温かな午後の日射しの中にいた。今日は「何日?」とスマホで確認すると10月である。夢を見ているんだろうか、と思う。だが、クラスメートにお好み焼き屋にいこうと誘われる。持ち合わせがなく断るが、これは確かに記憶にある10月の出来事であった。花の飾られていた席は、普段のままである。「あの席にいた奴は?」と尋ねてみると、「鏑木か?あいつ、真面目に出てこねーのは今日に限った事じゃねーだろう」と言われた。
 してみると、「鏑木」という奴の死を気の毒に思った事がきっかけで、タイムリープしたらしい。PCゲームの世界なら、ちょっとして変化でも未来が変わるから、もしかしたら鏑木の死を回避できるかも、と思ってしまう。そのまま帰宅しようとすると、その「鏑木」が副担任の美術教師に殴りかかっているのを見かける、記憶では関わり合いになりたくなく見過ごしたが、それを止めれば未来が変わるかも知れない。そこで、今回は鏑木を押さえつけて教師を殴らせないように止め、鏑木は逃げ出した。そのまま、以前同様に過ごして、また3月、鏑木の席に花が飾られていた。それを見た瞬間、またタイムリープ
 教師との喧嘩を止めたくらいじゃ駄目だ、もっと鏑木に接触せねばと決心し、今度は教師を殴って逃げ出した鏑木の後を追う。そんな風に、彼に近づいて親しくなり、彼が悲惨な家庭環境にあることも知った。父親と怪しげなスナック店舗の二階に暮らしていた。自宅に誘って一緒に勉強会をしてみたりする。だがやはり3月が来ると、彼の席は花が飾られている。そんな風にタイムリープを繰り返し、その度に鏑木に接近し、彼が父親の借金の形に、児童売春(ウリという)をさせられていることも知る。だが、ある日、鏑木の自宅を訪ねると、一階の店舗で父親が呆然としており、二階で鏑木が暴行死しているのを発見する。怒りで父親を殴り殺してしまう。そしてその時点で、タイムリープ
 今度ばかりは、信じて貰えなくとも鏑木にタイムリープを繰り返していることと、彼の将来の悲惨な死を打ち明けねばならなかった。何としても彼を守り、自分も安心したいと、気が狂いそうである。もはや無関係な第三者ではなく、愚かで哀れな鏑木を愛してしまっていた。この辺の、意識の集中化という恋に陥る過程が納得でき、夢中になって読んだ。恋とは、美形だとか格好いいとかの価値とは別に、運命のように相手に意識が集中していく事なのだろう。
 最後は、自宅に泊まり込ませた鏑木が暴力団に拉致される。殺される末路を知っているので、警察に連絡を近所の人に依頼し、夢中で追いかけ暴行を受けている現場に駆けつける。前回は、ウリ(売春)を嫌がった鏑木に暴力団が焼きをいれるつもりで殺害に至ったのであった。通報が間に合って、二人は救出される。
 だが、一週間以上鏑木の意識が戻らない。夢の中で、殺される末路を何度もタイムリープしていたのである。そして、誰にも構われず愛されなかった自分を、「あいつ=木嶋」だけがタイムリープを繰り返して気遣い守ってくれたことを理解し、感動する。
 意識が戻ると、薬物で人格崩壊した彼の父親の両親(祖父母)が、初めて孫の存在を知って引き取りに来る。その後は、彼らに愛されまともな生活が可能になる。木嶋とは別れ別れになるが、彼への愛を告白して「必ず戻るから、待っていてくれ」と約束した。BLハッピーエンドである。
 番外編で、同棲しても肉体関係を持とうとしない木嶋に、鏑木が迫ると「お前に、ウリの客と同じ事をするのが嫌なんだ」と言われ、そんなに自分を大切に思ってくれてるんだと涙が出そうになる箇所、感動した。風俗で働いたり売春した経験があると、蔑まれたり差別されるのが普通である。純真な少年(青年)だからこそ、愛する者を蔑まず大切に思う気持ちが素晴らしいと思った。
 ただの気晴らしで覗いたweb小説だが、久しぶりで感動した。