inner-castle’s blog

読書、キリスト教信仰など内面世界探検記

子役の演じる「紅楼夢」

 娘時代、「紅楼夢」を読みふけって親に叱られた記憶がある。その時の本はとっくに失ってしまったが、アマゾンプライムビデオで表記のドラマを発見した。子供が演じるのでは学芸会レベルと思ったが、少し覗いて見た。

 ふっくらほっぺの子供達が、付け髭で「…じゃ」などの台詞を言うのには吹き出しそうになった。だが、主人公の賈宝玉がヒロインの林黛玉と出会う場面、はじめて会うのにどこか懐かしさを覚え「あなたの玉は、どこに持っておられるの?」と尋ねると、「玉を含んで生まれる等、あなただけですわ。私だって玉をもって生まれてはおりません」と答えられ、癇癪を起こすシーン、浮世離れして純粋な情感に生きる主人公の心情を、子供ならではありのまま素直に表現し得ているように感じ、思わず引き込まれて最終回まで見てしまった。
 この場面を最初に読んだとき、主人公のエキセントリックさに辟易したものだが、天地開闢以来、取り残されて孤独に存在してきたが人界を体験するため賈宝玉として生まれてきたという設定である以上、もしや同類と期待した美少女林黛玉に突き放され、己が孤独を痛感させられる気持ちが良く分かるような気がした。
 続いて登場する第二のヒロイン薛宝釵や縁ある美少女達と、賈家出身の貴妃元春の里帰りを迎えるために設営された大庭園で暮らす日常が繰り広げられる。どの女達もそれぞれ生まれの因縁を持ち、主人公との細やかな情愛のやり取りがある。元春を演じる子役は、子供とは思えない優艶さで、惹きつけられた。劉婆役も芸達者である。源氏物語は、光源氏を理想化して描き、その傲慢さにうんざりさせられるが、この小説の場合、主人公は決して理想化されていない。その分、彼を巡る女達の情感がきめ細やかに描かれていて、大庭園の生活の豪華さや漢詩の豊かさなどと相まって、源氏物語を凌ぐ魅力がある。このドラマを観て、改めて読み返したくなった。

 だが、もはや老眼、字の小さな本で読み返すのは無理になってきた。読みやすく翻訳された本があれば、出会いたいと思っている。