inner-castle’s blog

読書、キリスト教信仰など内面世界探検記

台湾BLドラマ「隣のきみに恋して-Close to You」

 アニメ「天官賜福」にはまって以来、私もすっかり腐女子(BL好きの女)になってしまい、堅い本に飽きると主にアマゾンプライムビデオで軽い娯楽作品を観ている。だが、殆どが思春期の少年達のモヤモヤした気持ちとか、こそばゆい性的興味本位のものが多く、見応えある作品はなかなかない。真面目なものというと、深刻な悲しい内容だったりする。だが、偶々見た標題のドラマは、兄弟愛と恋愛の関係を描くヒューマンドラマとしても面白く、ジョルジュ・サンドの「愛の妖精」を思い出したので紹介したい。
 家賃節約のため、気の合う者同士で一軒の家に同居している、職場仲間の青年達三人の、(同性同士の)恋の顛末である。話は二つあり、一つは、入社してきた女性の気を惹きたいばかりに、彼女の趣味の同好会になんの趣味か知らないまま入会した男の話である。それがなんと「BL同好会」だった。男性がBL趣味?と疑われるので、実は自分はゲイだと嘘をつく。その嘘のために、同居している仲間の一人に恋人の振りをして貰い、結果、嘘から真になってしまうという脳天気な話である。でも、彼の恋を応援する同好会の女性達が可愛かった。
 取り上げたいのは、残りの一人の恋の顛末である。彼は仕事一筋、浮いた話一つもない。同じ市内に実家があり、実父とその再婚相手、再婚相手の連れ子である義理の弟がいる。彼は家族をとても愛しているが、大学三年生以来、家族と離れて暮らしている。それは、自分が男しか愛せないゲイであることを、家族に悟らせないためであった。その彼に、ある日義弟が訪ねてきて、自分の20才の誕生日を兄さんと二人旅して祝って貰いたいと言うのである。弟を可愛がっていた彼は喜んで同意し、二人で一泊旅を計画する。ところがその旅の夜、酔い潰れた彼を弟が襲い肉体関係を持ってしまったのである。翌朝、酔いが醒めた彼は、動顛して逃げ帰る。だが弟は追ってきて、「母さん達が再婚した僕が10才の頃から、ずっとあなたを(兄弟としてではなく)愛してきた」と告白するのである。母親の再婚が気に入らず、再婚相手の父と息子を、「父さん」とも「兄さん」とも呼べず家族に溶け込めなかった少年に、「僕も父さんの再婚は、死んだ母を裏切るようで辛かったよ。父さんと僕は二人で支え合って生きてきたけど、二人だけじゃ駄目だ。家族を作って助け合っていかねば、父さんも僕も幸せになれない。だから、僕は君という弟ができてほんとに嬉しい。これからは、僕を頼ってくれ」と言われ、生まれてはじめて心が温かくなったと言う。兄さんが、同性の恋人に失恋して泣いていたことも、その直後家を出た訳も、知っている、どうか僕を、「弟」ではなく恋人として受け入れて、家族の元に帰ってくれと言うのであった。
 勿論、すぐ受け入れられる気持ちにはなれない。だが思えば「弟」は常に父母以上に彼を慕い、彼も心から「弟」を愛してきた。そんなに長い間、兄としてではなく、ゲイである悩みを抱えたありのままの自分が愛されてきたことを思い感動するのであった。一方、弟は両親にも告白する。「兄さんは、男と結ばれなきゃ幸せになれないんだ。それなら、ほかの男ではなく僕が一番の相手だ。もともと、家族なんだから」。父親はショックで倒れるが、うすうす息子の性的傾向を感づいおり、息子がこのまま孤独に生き続けることも哀れでならなかった。彼の幸せになる道を受け入れようと決心する。
 あり得ないほど、変人の「弟」であり、いくら同性婚が認められている台湾でも、親が息子の同性婚を祝福し家族として受け入れるのは非常に抵抗があるだろう。だが、兄弟愛と恋愛の絡みを描いたサンドの「愛の妖精」に対し、家族を大切にする中華民族らしい家族愛と恋愛の関係を描いていて、興味深く、娯楽作品ではあるがハッピーエンドを喜んで楽しく観ることができた。